☆  Lesson 6



 どうなっている‥?
 やけに静かではないか?
 いや、周囲ははた迷惑なくらい騒がしいのだが‥。
 そうか!!
 なんということだ、使い魔め、司会進行をほっぽり出して消えおって!
 こ‥ こうなっては、儂がこの任を引き受けるしかないのか‥。いや、しかし、困った。
 人間界を垣間見るべく、せっかくこうして人形に仕掛けをほどこしたというに。
 早速、存在に気付かれるとは‥。
 計画はもう、動き出しておるというのだぞ!
 使い魔なぞに気取られるとは、儂もうかつであったわ。
 それにしてもだな‥
 クリスにレオンと言ったな、この連中は黙る‥ということが出来んのか? がなりたておって、耳が割れるわ。
 ぬ‥ しかし小僧っこ‥ いや、エンドが笑っておる。
 ‥‥‥ほう‥?
「ちょっと! あなた一体何ですの?」
 ぬっ! おっ‥おっ‥ わ、儂は通りすがりの‥ み、みすたーXとでも呼んでくれい!
「通りすがり? 何ですの、またまた怪しいくせ者ですわよ、レオン!」
「まあまあ、また新しいお客さんですか?」
 儂は、ただちょっと、ナレーションが留守になっとったのでな、これはいかんと思ってだな‥。
「まあまあ、それはご親切に〜」
「違うでしょ、レオン! ちょっとXさんとやら! 一体どこからしゃべってますの! 姿を現しなさいませ!」
 いや、どうやら儂はもう用済みのようだ。それに‥はっ! どこからか儂を呼ぶ声が! ぬうう、誠に残念ではあるがいかなければ! でゅわっ!
「まあ、お忙しい方なんですね〜〜」
「何なの貴方はもう〜レオン〜〜! 悪魔が簡単に騙されるようでは困りますの! それにしても、どうなってますの! 使い魔だの謎の声だの‥ 次から次へ‥。それにしても、司会進行ほったらかして消え去るだなんて、やっぱり使い魔なんて、信用出来ませんわ。まあ、期待などこれっっぽっちもしておりませんでしたけど」
「まあ、クリス。その分私、頑張りますから!」
「いいんですのよレオン。今回は私にお任せになって。間違いなく貴方では役不足ですわ。今回は女の勘がものを言いますの!」
「そんなぁぁ‥」
「いちいち落ち込まないで下さいます? 貴方には、特別、坊ちゃんをお任せいたしますわ! いいですわね?」
「は、はいっ! 頑張りますーーー!」
 ーー 単純ですわ‥。


      *


 皆様、いきなり重大事態ですわ。荷ほどきも出来ていないというのに、このままでは、魔界に強制送還ですわ。

 それもこれも、そう! ロマノフのせい。

 ああもう、信じられませんわ‥。
 皆様方も、鋭い方でしたらお気付きになったかもしれませんわね。
 そう、アレですわ!
 まだお解りにならない方は、人間界の乙女に人気のある少女コミックスとやらを一読することをお勧めいたしますわ。
 乙女の恋心ほど利用しやすいものはない‥というのが魔界の定説ですけれど、単純なのは男の方ですのよ!
 先の少女コミックスとやらには、恋愛のあらゆるパターンが例示されていて、入門書として最適だと、わたくし思いますの!
 乙女とはこのように愛らしく、可憐な生き物‥ そう間抜けな男どもに思いこませる為の技術が惜しげもなく紹介されていて、その質量の豊富さには、わたくし感動さえ覚えましたわ。
 このような教導書が広く流布している人間界。恐ろしいところですわ‥!
 ‥と、話が逸れましたわね。
 私が申し上げたかったのは、そのコミックスの中で、「王道」として随所に取り入れられているテクニックですの‥。
 その名も「禁断の恋」!
 このエッセンスを加えることで、より容易に、理性を失わせ、人を衝動の生き物とすることが出来るんですの。
 魅了(チャーム)の呪と併用すれば、まさに最強ですわね!
 ただし‥ ですわ。
 これは「恋は盲目」状態を極限にまで高める力わざ。下手にセッティングすると、こちらの思惑を越えた暴走を招きかねませんの!
 まあ、こんなことを人間の方々に講義しても始まりませんわね。専門分野ですので、ついつい力が入ってしまいましたわ!
 とにかく‥ ですの。
 ここまで言えば、どれほど鈍い御方でもお解りになりましたわよね!
 ロマノフのあの不可解な行動‥。
 「 恋 !! 」ですわ!
 間違いありませんわ!
 人間と悪魔の「禁断の恋〜!!」
 きゃーーー!! 燃えますわーーーー!!

 ‥じゃ、なくってーーっっ!!
 そんな場合じゃ、ありませんのよーーーーっっ!!
 人間をたぶらかして、情報を仕入れるつもりならば、わたくし何も申しませんわ! 
 ところがロマノフときたら‥

 人間にたぶらかされて、どうしますのーーーー!!
 
 あのロマノフの過剰な反応!
 少女コミックスにもしっかり描かれておりましたわ!
 真っ赤になって、湯気をふいているところまで同じですのよ!
 あれは主人公の色香に惑わされ、道化を演じ、結局フラれるだけの引き立て役。三枚目の反応ですわーー!
 二枚目は湯気吹きませんものーーー!!

 こうなってくると、ロマノフの周囲に浮かんでいた言葉の意味も見えてきますわ。
 「私は一体どうしてしまったんだ‥」ですって?
 あああああ‥。全くの考えなしですわ。このまま、暴走したあげく、お隣さんを魔界に連れ去りでもしたら‥。 あら、結構、ロマンチック‥。
 じゃ、ありませんのよーーーーー!!
 とにかく、そんな場合じゃありませんの!
 昔と違って、今は人間界への介入は魔界上層部によって、必要最小限に制御されていますの。誘拐などしようものなら、無実の私達まで即刻、クビですわ!
 私達の勤めは、人間界で坊ちゃまをしっかりお導きすること! まあ、あと2、3密命も帯びておりますが、これは秘密ですわね。
 とにかく、ロマノフのせいで私達まで、不適格者とみなされるなんて許せませんわ!
 今の内に、きつ〜く釘を刺しておかなければ!!
 それにしても、ミチコとかいうお隣さん。あのどこか抜けてる雰囲気は演技かもしれませんわね。
 まだ半日しか経っておりませんのに、坊ちゃんをはじめ、レオン、ロマノフにまで取り入るなんて‥。
 もしや、人間側のスパイ? それとも、私達の仕事ぶりをチェックするために送り込まれた魔界の監察官? どちらにせよ、油断なりませんわ。
 そうなると、ますますロマノフを放し飼いにするわけには、まいりませんわね!
 チーフだというのに、レオンは頼りになりませんもの‥。
 不本意ですが、私が手綱を取らなければ、この人間界の荒波は乗り切れそうにありません‥。
 か弱いこの身に、いきなりの苦境‥。
 でも、でも、クリスは決して負けませんわ!
 見守っていて下さいましね、フィレンツェラさまぁああ〜〜〜ん!!


      *


 どごぉおおおおおおおおおおぉぉんん‥‥!!!

「な‥ 何事ですのーーーーーっっ!!?」
 人間界の朝は早いですわ‥。
 とはいえ、朝っぱらから、この騒々しさは何ですの!? 確かに今、屋敷全体が大きく振動しましたわよ!
「あ! おはようございます、クリス〜。ちょうど良かった、今、お起こししようかと‥。朝食の仕度が出来ましたよ〜」
 ああ、朝から気の抜ける声ですわ、レオン‥。何を呑気に‥。
「ロマノフさんも、たった今、散歩からお帰りになりましたし〜」
 って、やっぱり今の震源は、ロマノフーー!!
 玄関の方から、もうもうと土ぼこりが上がってきますわ。
「‥‥で! 今度は一体、何ですのっ!」
 大体想像つきますけれど、念のため‥。
 ああ‥ 壁に開いた大穴から、人間界が見えますわ‥。
 茫然と立ちつくしているのは、お隣さんですわね‥。
 手に持っているのは、「ほうき」のようですわ‥。魔界のものとは形が違いますけれど‥‥

 ーー はっ! ということは、もしや!!

    あの娘‥ 魔女っ!?

 そうですわ! あのトロくさそうな雰囲気はやはり擬態でしたのよ!? ロマノフの眼光を受けて平気な人間なんて存在するわけありませんもの!
 お隣さんは、魔界当局の手先!
 これで、納得ですわ! 家にいたご老体が、きっと上役ですのね。見るからに怪しいと、わたくし初めから にらんでおりましたの!
 ‥っと、私としたことが、つい興奮してしまいましたわ。
 けれど、皆様にも、魔女について少しお話ししておいたほうが良いかもしれませんわね。恐らく皆様、勘違いされていることと思いますの‥。
 たしか‥ 人間界の魔女のイメージというのは、少女が呪文を唱えると、大人の女性に変身したり、愛らしい装いをまとったりする‥というものですのよね? 「バトン」や「ほうき」をはじめ、色々なアイテムを駆使して‥。
 ですが、私に言わせれば、あのようなアイテムを必要とする方々は、真の魔女ではありませんのよ!
 魔女にも幾つかパターンがあるのですけれど、一般的なのは、情報収集の為に人間界での勤務を命じられている魔界の公務員ですわ。「魔法使い」と呼ばれている者達も同様ですの。
 噂によると、かなり高額の手当がつく、おいしい仕事だそうですけど‥ まぁ、長期赴任ですし、当然ですわね。
 公務員となって10年を経過しないと、受験資格が得られない難関の職種ですのよ。
 昔は、ヒラが追いやられる職種だったそうですけど、そのまま人間界に居着いてしまう者が続出したので、改めたんだそうですわ。
 なんでも、昔は、人間界への進出拡大路線をとっていて、人間の弟子をとることが奨励されていたらしいんですの。
 まぁ、例のごとく邪魔が入ったのと、魔界の内紛とが重なって、現在の人間界不介入路線に転向したんですけれど‥。
 ‥と、そんなことは、どうでも良いんですわ。
 問題なのは、人間側の協力者が増えたことで、わざわざ魔界からコストをかけて人材を派遣する必要がなくなってしまったことですの。
 人間界での業務は、主に人間の協力者達に委託。その上、協力者の多数が、自分の血族に代々業務を引き継いでしまうものですから、このおいしい仕事はますます狭き門‥。
 人間の方が人間界に詳しいのは当たり前ですけれど、いい迷惑ですのっ!
 ‥っと、ごめんあそばせ。話を戻しますわね。
 本来、魔女というのは、魔法全般に長けたエリート。ですから、アイテムなしでは何も出来ないなどというのは、十中八九、協力者達の子孫ですの。悪魔との混血の結果、多少の魔力を持つ者もいると聞いたことはありますけれど‥。
 ‥と、こんなところですわね。
 それにしても、魔界当局の監視だなんて、考えただけで、うんざりですわ。
 おそらく、人間界に適合できるか否か、現在、見極め中というところですわね。
 あら?
 しかし‥ ですわ。わたくしが監視の目に気づいてしまったこと‥ 当局はまだ気づいてませんのよね?
 ということは‥。これは、ある意味チャンス?
 わたくしが、いかに気品と才気と美貌に満ちあふれた悪魔かということを、当局に知らせるチャンス‥!
 ‥‥となると、やはり問題は‥‥。
 ロ・マ・ノ・フ〜〜〜〜〜‥!!!!
 監察官に無礼を働く前に、ますます何とかしなくては!
 昨夜は、人間界で迎える初めての夜‥。そう思って、無粋な忠告は先延ばしにしたのですけれど、浅はかでしたわ。
 平気で壁を突き破るような無神経男に、そんな感傷にひたる繊細さがあるわけありませんもの!
 とりあえず‥
「これ美味しいですわ、レオン‥」
 考えるのは、食事の後からにしますわ‥。
 亜空間の隙間にでも突入してしまったのか、いつまで経っても、ロマノフは帰ってまいりませんの‥。
 食事と就寝は定時に行うのが、美容の秘訣。お先に頂くことにいたしますわね。
「クククク‥リス?」
 ああ、もう! 今度はレオンですのっ?
 様子が変なのは、いつもですけれど、フォークを握りしめたまま、ふるふる涙ぐんでいますのよ‥。
 まったく付き合ってられません‥わわわっ‥っと、
「なんですの暑苦しいっ! そんなに近づかないで下さいましーっ!」
「クリス〜‥ ほほほほ本当ですか? 『美味しい』って‥」
 ‥‥は?
「それとも‥‥嫌み‥?? でも、クリスはあまり悪魔語をお使いになりませんし‥。 ああ!! 坊ちゃまも笑顔で食してくださってるぅぅ‥ ほろり」
 なんですの‥!!?
 ひとりで、浮いたり沈んだり、忙しい男ですわ‥。
 それにしても、たかがサラダと、ドードーの卵のスクランブルエッグで、この私を唸らせるとは‥。
 チーフとは、家政婦のチーフってことだったんですわ、きっと‥。

 さぁ、腹ごしらえは完了‥‥と。
 どこへ行ったか存じませんが、あの大男‥ ひっ捕まえて、今度こそ、はっきり言ってやりますわ!!


 ですが、か弱い私ひとりでは、さすがに危険ですわね‥。
 行きますわよ、レオン! 
 皿なんか洗ってる場合じゃありませんわ。
 もしもの時の楯となるんですのよ!


      *


「な〜にしてますのよ! 使い魔!?」
「ねっ‥姐さんやないですか! お懐かしゅう〜〜」
「馴れ馴れしいですわよ! それに、まだ一晩しかたっていませんわ!!」
 失礼いたしましたわ、皆様‥。
 いなくなってせいせいしたと思ってましたのに、役立たずのチューリップ‥ いえ、「魔法の種」の使い魔が、まだこんな所をうろついてましたの‥。
「ああ〜 効きますわ〜 その朝から容赦のないトコロ。姐さん、今日も絶好調ですな〜?」
 ‥っと、皆さ〜〜ん!! わてです! シェルシェルです〜!! まさか、忘れてなんていませんやろな〜!!
 ちょ、ちょっと!! どういう了見ですの!? 勝手に司会進行を放棄しておいて、今更、何を考えてますの!
「姐さ〜ん‥。わかってます! わかってますんや! わてかて、あれは苦渋の選択! やむにやまれぬ‥ってやつでしたんや! ほんま、こーやって姐さんと『どつき漫才』やってるほーが、なんぼか‥」
「なんですの? 『どつき‥?』」
「いーやいやいやいや‥ ほんま姐さん、今日も一段とお美しゅう‥」
「今、何か誤魔化しませんでしたこと?」
「イヤやな、姐さん、何言ってますのんや〜? それよか、姐さんこそ、こないなとこにお一人で、どないしはりましたん?」
「はっ! そうですわ! ちょうど良かったですわ、楯になるものが必要でしたのよ。 使い魔、今すぐ、あなたの主人の所に連れて行きなさい! まったく、レオンと来たら、肝心なときに‥!」
「レオンはん、どないしはったんで?」
「坊ちゃんが、ロマノフの開けた穴から、出ていってしまったんですのよ‥。ちょうど、お隣さんが見えていたものだから‥」
「?? どうしましたの!? 使い魔??」
 何やら、急に空中で根っこをジタバタさせ始めましたわ‥。
「で、今度は、どこに逃げる気ですの‥?」
「後生や、姐さん〜! 離して〜な〜! 今度見つかったら、間違いのう消されてまう〜〜!」
 油断も隙もありませんわね。一瞬遅ければ、また逃がしてしまうところでしたわ。
「どういうことですの? 大人しく種に戻ると言ってましたでしょうに?」
「そうだすー! せやから、一刻もはよう、種に戻ろう思うてましたのに、御主人、物思いに没頭してて、わての話なんか聞いてくれまへんのや〜〜!」
「意味が分かりませんわ。落ち着いて話しませ! ロマノフじゃなければ、誰から逃げると‥‥あ」
「ああぁああ、まさかっ!! 監視っ! あなたも気づいてたんですの! 見られていること‥!」
「ぎゃーーー! 姐さん、声でかい! シーーッ! シィーーッ!!」
「わ、わかりましたわよ! その変な葉っぱ押しつけるの、やめてくださいましなっ!」
「ややっ、姐さん悪い。ちょっとビックリしてなぁ‥。ほんま‥ 心臓に悪いわ〜‥。 って、言葉のあやですさかい、そんなマジマジ見んとってーな。わて心臓なんかありまへんで〜」
 ややこしい種ですわね‥。それより、
「わたくし驚きですわ。口ばかりの種だと思ってましたのに‥! いつ気がついたんですの? それでいきなり姿をくらましましたのね?」
「わても命が惜しいですさかい、はっきりしたことは、よう言いまへん‥。姐さんも、このことだけは口にせんほうが‥」
「何故ですの? そんなに大したことでも‥」
「何ゆーてますのや、あの御方が絡んどるんでっせ!」
「‥‥ ま、そんなに大物ですの、お隣‥?」
「隣‥? そんくらい近くにおると言いたいんですな? ほんなら、あの御方の名を口に出来ひんわけ‥‥ 解りますやろ?」
「まさか!? 名前が禁忌に触れるほどの大物ですの!?」
 ‥っと、皆様。「名」というものは、もともといくらかの呪力を秘めておりますの。
 「名」とその「持ち主」は、互いに影響を与えあうものなんですけれど、「名」それ自体が呪文のように魔力を持つことも、まれにですが、あるんですのよ‥。
「だけど、そんなのは天然記念物級の大物のはずですわよ。こんなところで、出稼ぎ労働なんてしているわけがありませんわ。一体、何の目的で人間界に!?」
「あかん、姐さん、詮索は命取りや! 気づかんフリして、やり過ごすんが一番や!」
「そんなこと、解ってますわよ。この機にポイントを稼ぎまくって、バラ色の人生に一直線ですものっ!!」
「なななんちゅー大それた! ほんま、姐さん、大した上昇志向や。ここまでくると、いっそアッパレでんがな‥! うちの御主人にも、そないなトコが、ちっとはあったらええんやけど‥。はぁ〜〜。 せやけど姐さんの言わはること、もっともかもしれんなぁ。あの御方に覚えていただくチャンスなんて滅多にあらへんもんなぁ。‥‥せやせや、ほんま、ご主人にも、ここは一発、頑張ってもろて‥」
「はっ! そーーですわっ、ロマノフ!! わたくしときたら、使い魔と話し込んでる場合じゃありませんのよっ!!」
「姐さん、シェルシェルでんがなー。いい加減、覚えてーな〜」
「うるさいですわよ! それより、ロマノフはどこですの! この部屋っ!? もしや、また窓からお隣を見つめてるんじゃ? ああ、いやですわ〜!! うじうじした男〜〜〜!!」
「姐さん! なんやわからんけど、ここはひとつ穏便に〜〜!!」
「うるさいですわよ! いきますわよ! ちょっと、ロマノフーーー!!!」

 きゃぁああああああああ!!!!

「姐さん、なんですのん? 今の悲鳴?」
 使い魔を楯にして、部屋に踏み込もうとした わたくし‥。
 しかし、つんざくような女性の悲鳴が、扉にかけたこの手を止めたんですの‥。ああ‥。
 おそかったんですわ‥。
 使い魔などにかまっている間に、連れ去って来てしまいましたのね〜〜〜!?
「ひっ! ロマノフっ! ‥‥な、何してますの?」
 お隣さんを救出すべく、扉を開け放った わたくしの目に映ったのは、窓にへばりついたロマノフのみっともない後ろ姿‥‥。
 では‥、今の悲鳴は、ロマノフが原因ではありませんのね‥。
 良かった‥。しかし、何でしたの、今の悲鳴? 
「外からですなぁ〜。お隣ちゃうやろか?」
「ま、まさか、レオンが何かっ!?」
 監察官に粗相(そそう)を〜〜‥。
 ああ、ロマノフにばかり気を取られていたのが間違いでしたわっ! レオン〜〜! 人畜無害なところだけは、人間界で使えると思ってましたのに〜〜!

 ドッゴォオオオオーーーーーンン!!!

「キャーーー!! ロマノフーー!! 貴方ここ3階ですのよぉおおおお!!」
 ロ‥ロマノフが、窓を突き破って飛び出して行ってしまいましたわ。
 あああ‥ 耳を叩くのは、絶え間ない破壊音‥。
「御主人〜〜〜!!  ‥‥‥行ってまいましたで‥」
「‥‥お隣は‥?」
「土煙で見えまへんなぁ‥」

 遅いか早いかの違いでしたわね‥。
 もう‥ 終わりですわ‥‥。


 


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