新食感


独り暮らしをしていた私の引っ越し作業の真っ最中。
手伝いに来ていた母が、休憩にココアを淹れてくれた。
引き出しの奥底から出てきた袋に、ちょうど2人分だけ残っていたのだという。
「溶けないのよ、このココア‥」
そう母が言うとおり、白っぽいツブツブが溶けきれずに、びっしりココアの表面に浮いている。
だが、疲れ切っている私は、甘くて温かいココアの香りに、ただうっとり‥。
まったく気にせず、いただきまーーす!
しかし‥

 う? これって、ウエハース入ってたっけ?

まるでクランキーチョコレートをお湯で溶かしたような‥、ふやけかけたコーンフレークのような食感が口の中に流れ込む。
 ジャリジャリジャリ‥。
 噛み噛み‥ ごっくん。

でも、なんか変だ‥。
んなものが、ココアに入っていた記憶はない。
うちの母はチャレンジャーで、よく怪しげな工夫をする。もしかすると、クラッカーか何かを散らしたのかもしれない‥。
鮭茶漬けの丸いアラレのようにも見えるその物体‥。
よくよく眺めた私の全身に、ゾワッ‥と鳥肌が立った。

 虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫、虫‥‥‥

 虫である。


ココアの表面にびっしりはびこっていたソレは、カブトムシの幼虫を米粒半分のサイズに縮小したような虫の大群だった。

 おーーーえーーー
口の中に残っていたソレを吐き出して叫ぶ私。
「おかん、それ、虫ーーーーーっっ!!」
 ジャリジャリジャリ‥ ごっくん?
まさに鳩が豆鉄砲くらったような表情の母。
すでに3分の2以上を飲み干していた彼女(※老眼)は、コップを見つめ、そのまま撃沈した‥。


タンパク質‥ってことで‥(青ざめ‥)



back