無い‥
幼稚園のお弁当の時間、その事件は起きた。
先生の号令のもと、みんなそろって「いたぁだきます!」。
はっきり言って、今も昔も弁当の時間が一番楽しみな私。(給食はそうでもなかったが‥)
「今日のおかずは何だろな〜」とワクワクしつつ、巾着袋からお弁当箱をとりだす。
内容はいつもたいてい同じなのだが、問題はない。卵焼きとおにぎりがあれば幸せなのである(さらに唐揚げがあればバラ色)。
ピンク色のプラスチック製お弁当箱は、当時懐かしいアニメ「テンプルちゃん」のイラスト付き‥。鼓笛隊だかチアガールだかの格好をした金髪少女が、動物たちを引き連れてバトンを回しているという、よーわからん風景だが、これはこの際関係ない(なら書くなよ‥)。
さておき、テーブルの上にきちんとお弁当箱をセットし、おもむろにフタを開ける私。
胸の高鳴る一瞬である。
‥が、次の瞬間、私は目を疑い、フタを閉めかけ‥ また確認するように開けた。
ーー んなバカな!?
そう思って凝視するが、無い物は無い。
そう‥。何もナイ。 カラである‥。
弁当箱の底だけがなめらかに光っている。
‥‥かーーちゃん‥‥。
正直、やられた‥ と思った。
これはオモシロイかもしれないなんて、ひそかに感じている。
ブラックユーモアが解るとはイカした幼稚園児である(?)。
先生に空の弁当箱を見せると、先生は複雑な顔をした。
笑うに笑えない顔ってやつであるが、最初に吹き出しといて今更遅いのである。
家に帰ると、今度は母に訴えてみる。
弁当をカバンに入れた張本人は、「ごめんね〜」と言いつつバカウケしている(言われるまで気づかなかったらしいが、弁当の中身は一体どこに‥??)。
ちょっぴり釈然としないが、おかげさまで、それ以降、箸を忘れたぐらいでは動じなくなった‥(アカンやろ)。
用務員のおばちゃんがくれたメロンパン‥ うまかったなぁ‥。
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