ぐるぐる野郎


中学校の恒例行事、林間学校のメインといえばキャンプファイアー。
そして、嫌でもついてくるおまけ「フォークダンス」。
もうこの年齢になると、お決まりのテーマソング「ワラの中の七面鳥」など、うざったいだけである。(「レッツ・キッ○・頬寄せて♪」よりマシだけど…。それより、キックなのか、キッスなのか…どっちなんだ。えらい違うぞ…)
どうせなら複雑なステップの入った達成感のある踊りにしてくれ…などと、出来もしないくせに思っていると、皆の前で踊りの見本を見せる代表にピックアップされてしまった。
前言撤回、出来るだけ簡単な踊りにしてください、ホント…(ちなみに運動神経はゼロ)。

クラスから男女1名ずつ選ばれた代表、十数名が前に出て、学年全体の前で、しぶしぶダンシングするのである。
はっきり言って、やる気などナイ。 お手々つないでランランラン〜というよりは、葬式の列のようである(しかも音楽だけ軽快)。
あーー、くそ、なんだってこんなこと〜。皆、おしゃべりしてろよ、こっち見んじゃねーよ。
恥ずかしがり屋さんの私にとって、これは、はっきりいって苦行である。
この思いは、代表達皆一緒だろう。
しかし、この確信は数瞬後、見事にうち砕かれたのであった。

「ふギッ!!」

声を出さなかっただけでも褒めてもらいたいほどの衝撃が、背骨に走った。

仮にもフォークダンスである。男子が女子の手を取り、一応はリードしてくれている。
私も形だけは、耳の辺りに右手を上げ、腰の辺りに左手を漂わせていた。
そう、あくまで形だけ。暗黙の了解でそういうものだと信じていたのに〜〜。

 あの青春勘違い野郎め……。

そいつは、私の両手を握りしめるや、背後にグン!!…と引っ張ったのである。
うつろ〜に丸めていた背中が、一気にエビ反り。
痛〜ッッ!と固まる私は、そのまま、ぐるんぐるんと一回転半!(一回転でいいんだぞ、ここは!)
そして、ポイッ…と捨てられる…。

 なななな何だったんだ〜〜!???

惰性で踊り続けながら、奴を見る。
赤黒く日焼けしたニキビ面のそいつは表情ひとつ変えず、次の犠牲者をグルグル回していた…。

 何者だ… アンタ。(いや、名前くらいは知ってるんだけど…)

気づけば、ダンシングタイムは終了。
朦朧としながらクラスに戻る私の視界に、婆のごとく背中をさする数名の女子の姿がよぎった……(恐ろしい)。


しかし、フォークダンスの悪夢はまだ終わっていなかった。


集会が終わるや、普段お愛想程度にしか喋ったことのない女子4〜5名にいきなり囲まれたのである。
興奮状態の異様な雰囲気で、彼女達は「○○くんの手の感触」を聞いてきた。
なんと、うちのクラスのもう一人の代表○○くんが、女子にモテモテの男の子だったのである(知らんかった…)。
○○くんは「歳ごまかしてるやろ?」な顔立ち(どー見ても、20代)の、すこぶる学ランの似合わない子であった為、ある意味、衝撃は受ける。が、まさかそんなことは言えない。

 だいたい、それどころじゃなかったっちゅーねん!!(ぐるぐる野郎のおかげで…)

喉まででかけた言葉は、いつもとどこか違う彼女達の微笑みの前、霧散した。
「普通‥」
な…なんかよーわからんが、コワイかも…。
恐怖のスマイルに負け、よく解らない答えを返す私。
それでも彼女達はご不満らしく、なかなか追及の手をゆるめない。が、やがて…。
「でも、○○ちゃん(←私)なら許せるわ〜‥」 などと、のたまいながら、そのモテ男君が触ったという私の手を順番に握りしめ、
「そっか〜 普通かぁ〜」
と呟きながら嬉しげに去っていった(ぐるぐる野郎が握った手でもあるんだけど…)。

お…恐ろしすぎるぞ…フォークダンスっ…!




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