まぁぼぉ〜


夕飯は麻婆豆腐(マーボートウフ)。
とろみをつけて、出来上がり……。と、調子に乗ってかき回したら、豆腐が崩れまくってしまった。
見た目は悪いが、豆腐が細かい方が味が染みってる気がして、私は好き。
しかし、両親の口にも入るものなので、あまり私好みにも出来ない。
とりあえず味見だべ〜と、水切りカゴからお茶碗を取り出そうと手を伸ばした。とたん……

 カンッ!!

と、私をフリーズさせる鋭い音が響いた。
右手に走った衝撃と、視界の端を飛び去る白い影で、何が起こったかを理解する。

 やってもた〜〜……

恐る恐る右手を見ると、お茶碗は綺麗〜に真っ二つに割れていた。
お茶碗は、マーボーの入った鍋へと向かう途中、洗い場のシンクの角(内側)に激しく激突してご臨終遊ばしたのである。ハッキリ言って「何でそんなところにぶつけるねん!」という難しい場所にナイスショット!

茶碗を割ったのは、5年ほど前に勤め先の所長の湯飲みを落とし、足で受け止めようとしたが失敗し、かえって蹴りを入れて破壊したとき以来(夫婦茶碗の夫を抹殺)。
たぶん、生まれてから通算5回目の破壊行動。少し落ち込む。
「100円均一」の茶碗…というのがせめてもの救いと言い聞かせ、気を取り直して破片を拾い始めたそのとき、私は恐ろしいことに気が付いた。

 破片が足りん!!?

大きく割れた二つの破片を組み合わせてみると、最も激しい衝撃を受けたであろう茶碗の縁の部分が綺麗に消失しているのである。
消えたのは、底辺8ミリ程度の小さな三角(デルタ)地帯。
視界の端を飛んでいったのは、奴に違いない。
飛び去った方向…… 床の上には、白いつぶつぶが散乱しているのが見える。

 おいおい、分裂しすぎ〜っ!!

魚の鱗のようになった細かい破片を拾い集めると、半分は米粒。
もうちょっと、お掃除を心がけよう……と少し反省しつつ、またお茶碗の復元に戻る。
しかし、足りない……。

よくよく見ると、シンクと破片が落ちていた床の部分を結ぶ直線上、コンロ付近にもいくつかの破片が見える。
……が、まだ足りない。
と、なると、残るはここしかない。
そう……

 マーボーの中……(げっそり)

のぞき込むと、細か〜く分裂した豆腐の切れ端があちこちに。
まさに「木を隠すなら森の中」。
恐ろしいことに、この白い切れ端の中に「奴」が紛れ込んでいるかも知れないのである!

しかし…… 怪しい奴を全部すくってみるが、全て豆腐。
茶碗の破片はかなり小さいので、重みで鍋の底に沈んだとも考えにくい。
勝手な予想、マーボーの危険度は50%。
フィフティー フィフティーの確率で、口の中が血だらけになる予感。
下手すると、するっと飲み込んだあげく、胃袋や腸で出血なんてことも有り得る……。

ドキドキしつつ、両親に理由を説明し、マーボーを茶碗に盛る私。
一瞬、捨てようか…と迷ったが、腹を空かせた父は「メシメシメシー」と、安全よりも食欲を選んだのである。
人に食わせておいて、私が逃げるわけにもいかない(そうか?)。

「良く噛んでなっ!!」

時折、言い聞かせつつ、マーボーをかっ喰らう家族。
父は無事クリア…… 母もクリア…… そして私もどうにかクリア……。
そして、最後にもう一杯分残ったマーボーを、おかわりする私。
豆腐のくずが集積した、もっともデンジャラスな残りカス……。
私が責任取らねばなりますまい(もう、捨てろよ)。

しかし、これまた無事にごちそうさま♪
一晩明けても、腹部に痛みを訴える者もなく、どうやら取り越し苦労だったことが判明。
いやぁ、捨てなくて良かった!!

だが……
未だ出てこぬ破片はいずこ??
そのうち、ブチッ…!と踏んづけそうな気がして恐ろしい……。






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