許すまじっ! その1


それは私が高校生の頃の話。
登校のため、駅への道をほてほて歩いていると、何かが尻を触った。
物がぶつかるような感覚ではなく、ぽむっ、さわっ…とソフトタッチ。
間違いなく人の手である。

朝っぱらから、こんなことをするのは、この世に一人しかいない。
Oh、マイ マザー!! うちのおかんである。
彼女は挨拶代わりに人の尻をなでる(はたく)クセがある(自分もしてるので、あまり非難できないが… −−;)。

 おいおいおい、こんなとこで…… まったくもう……

「かあさぁ〜ん?」

もしかすると、私が弁当を持って出るのを忘れていて、それを届けに来てくれたのだろうか……?
ふと、そんなことを思いながら、振り返った私の視線の先……
立っていたのは、不審な男だった。

そう…、あまりに不審。怪しいったらない。
男は、リレーのバトンタッチ(受ける側)の姿勢を保ち、おどおどした目で私を見つめながら、ジリ…ジリ…と亀の速度で去っていくではないか……。

 なっ…… 何者っ??!

いや、顔は見たことがある。近くの精神病院に通っている患者さんに違いない。
当時、私が住んでいた社宅は、焼き場(斎場)&無縁墓地と刑務所と精神病院に囲まれたトライアングル地帯に位置していた。
狭〜い道を霊柩車が疾駆してくる、かなりデンジャラスな場所でもあるが(こいつにだけは轢かれたくない)、急行の止まる駅もすぐ近くという、便利だけどなんだかなぁ…な土地であった(駅徒歩1〜2分で焼き場。うーむ)。

人通りも結構あるのだが、以前、変態お兄さん(?)に遭遇したことのある私は、周囲の不審人物には結構気をつかっていた。
この変態お兄さんは「大学の新歓コンパの罰ゲームで、女の子を腕の中に立たせて、立ったり座ったりしないといけないんですが、協力していただけますか?」と、非常に丁寧に、前にならえした腕を輪っか状にして、軽く膝を屈伸して見せてくれた。
私は「他をあたってください…」とさらに丁寧にお断り。
暗がりで周囲に人はいない。見届け人のいない罰ゲームに何の意味があろうか…(やったことにしとけよ)と、当時の私は冷静に受け止めていたが、本来ならここは

「きゃぁん、変態よぉおお!」

とダッシュで逃げるところ。危機意識が低すぎるぞ、私!

そういえば、中学校の頃も、見知らぬおっちゃんが、ススス…と自転車で近づいてきて、小さな犬の餌の骨(?)を振りながら、
「ねぇちゃん、気持ちいいぞ〜 ハァハァ」
とかなんとか、ニヤニヤささやいて去っていったことがある。
今考えると、犬の餌に見えたのは、オジサンのピーー(自主規制)で、露出狂と言われる類の御方だったのでは……と推察される(ヘソ下あたりで持ってたしなぁ…)。
いかにも変態くさい…ことは感じ取りながらも、軽〜く無視で済ませていた私。ここも、

「何しさらす、ド変態ー!!」

と、大声でわめくところ(ま、日中で人通りもあったけど)。ダメじゃん私ーー!!

そんなこんなで、変態には気を付けているつもりだが(どこが?)、この時は早朝ということもあり、完全に油断していた。
その上、母親だと思っていたのは、謎のバトンタッチ男。それも低〜い体勢から、怯えたような上目遣いでこちらを警戒している……(被害者、私よなっ?)。

 何? 一体、何が起こっているのっ……??

動揺するなという方が、たぶん無理。
気が付けば、私は男を残して、再び駅へと歩き始めていた(無意識に避難)。
そして、数分後、駅の階段を上っている時、更に気が付いた。
 もっもしや、私……

 ちっ… 痴漢されたーーーーっ!????

帰宅後、母と弟にこの話をしたら「すぐ気付けーー!!」とかなり馬鹿にされたが、振り返った先にバトンタッチ男がいてみろ、思考とまるぞ……。



back