闇の中


高校の頃、友人達と映画を見に行ったときのこと。
中段(?)の最前列……という、隅の方だが足の伸ばせるポジションに陣取ることに成功した私達。
宣伝やら予告編が流れ初め、やれやれ…と一息ついていると、「あ、そこ空いてるぅ〜」と場違いな甲高い声が降ってきた。
現れたのは、ゴージャスそうな衣装に身を包んだ姉ちゃん二人と、見るからに組関係の方ですか?…風のお兄さん(ミナミの帝王のよーな格好)。

 空いてるって…… ココ?

まっすぐ私達の方へやってくる彼らを息を詰めて見守っていると、いかつそうに見えたお兄さんが唐突に「ここ空いてます?」と声を掛けてきた。

 おおお、意外にもジェントルメン。見た目で判断してゴメンなさい。

しかし……
謝る必要なんて、ま〜ったくなかったのである!!

まず、彼らが席に座ってほどなく、凄まじい異臭(刺激臭)が鼻を突いた…! 
涙が出るほど酸っぱクサい!!
慌てて周囲を見まわし、激臭の出所を知った私は、しばし固まった。

 ぎょ… ギョーザ…??

スクリーンの光に照らし出されたゴージャス三人組は、テイクアウトの餃子(ぎょうざ)を喰っていた。
しかも、それは、ほんとに餃子?…そう疑わずにはいられないほどの強烈な匂いを放っている。
後に友人が「意識が遠くなる匂い…」と評した餃子を食べ終わった彼らは、しばらくすると、次なる行動に出た。
必死にスクリーンに集中しようと試みる私達をあざけるかのように、ガサゴソ音を発し続けていたかと思うと、次の瞬間……

 シューーーーボボボ バチバチバチバチ〜〜〜!!

視界の半分を埋めるまばゆい閃光……。
なんと…… 花火である。
一応、ミニサイズのものらしく、閃光はすぐに消えたが……。

 アンビリーバボ〜… バボ〜… バボ〜… バボ〜…(←エコー)

思考停止のまま、目は釘付け。
館内は禁煙やっちゅーねん、スプリンクラー回ったらどうしてくれる〜〜!…なんてことを考える余裕もない。

 どうやら、関わってはいけないタイプの大人らしい……。

そんな気持ちと、勘弁しろよ…という心の叫びが、しだいに交錯を始め、わけもなくドキドキ。
緊張をはらんだ、無言の重苦しい空気が周囲を包んでいる気さえする……。
そう、黒ヒゲ海賊ゲームのようなあの緊張感である(違うって)。
しかし、そんな私達に肩すかしをくらわすように、非常識トリオは花火の燃えカスだけを残し、ご機嫌に映画館から出ていったのであった……。


な…… 何しに来たの??(その間の映画の内容、覚えてねぇよ)



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