付け忘れ その3


一時、父が赴任をしていた研修所での話――。
ある雨の日、会社のお偉いさんが車に乗り込もうとした際に、職員Aが傘を差し掛けようと、傘立てから適当な傘を引き抜いた。
ところが、その傘をお偉いさんの頭上にその差しのべた瞬間、ポロリ……と何かが転がり落ちたではないか?
拾い上げると、な、なんとそれは……

 女物のパンティ――!? (とに、下品な話ばっかで済まないねぇ)

当然(?)、お偉いさん大激怒!(喜べよ。 …オイ)
職員達もてんやわんやで、犯人調査に乗り出す(大げさやなぁ)。

研修所に入っているのは、新規に採用されたばかりの若い男女達(人数は多い)。
まだまだ学生気分の抜けない馬鹿者がいるに違いない……ってえことで、
「犯人は名乗り出なさ〜い」な回覧が研修生達に回された。
が、もちろん犯人は名乗り出ない。

事件当日、現場に居合わせたらしいマイファーザー。
職場では殊勝な顔をしているに違いないのに、我が家では、上機嫌で
「ケケケケケ、おもちれ〜〜」などと喜んでいる。
 いや、アンタの傘に入ってたんだろーよ、パンツ!?
……なんてことは、どーでも良いらしい。
被害にあったのが自分でなければ、オールOKなオヤジ様である。

しかし……。
事件はその後、急展開を迎えた。

数日後、風呂場の前で母が何やらゴソゴソやっていると思ったら、難しい顔をして私に意見を求めてきたのである。
「ちょっと、見て……」
そこには、タオルやらクシやらが雑然と入ったカゴがある。
母は唐突に、その後にあるカーテンを開けた。
すると、カーテンの向こうには、バケツに入った何本もの傘――。

 ん? 傘……?

ああぁ、母の言いたいことが分かってしまった……。
既に我らの脳内コンピューターは犯人を特定している。
話に聞いたパンチィの形状、犯人の普段の素行からも間違いはあるまい。
しかし、念のため再現実験を試みてみる、アホ母子。

「さーて、お風呂にはいるぞ〜」と犯人が替えの下着をカゴにぶん投げる
→ すると、カーテンの隙間から、イヤン♪…な物体Xが転がり落ちて……
→ その下にある傘の中に―― ポトッ。
→ そして、怪しい天気の日、父はそいつを片手に職場にゴー!

 ま……間違いない……。

研修所を騒がせている愉快犯。それは――

 うちの妹ですぅ!!

 すんません、すんません、研修生の皆さぁ〜〜〜ん!!!

(ちなみに、父は黙秘を貫いた……)



あれ? 「付け忘れ」の話ではない……?



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