押し猫
ある昼過ぎ、洗濯物を干そうと庭に出ると、猫が宙に浮いていた。
ななな何〜〜〜っ!???
有り得ない……。
完全に重力を無視したポーズ。
だが幾度、我が目を疑ってみても、そいつは向かいの家の窓で4本の足を大の字に開き、思いっきりバンザイの体勢でこちらに腹を見せている。
そのはりつけにされた標本のような姿から、一瞬、「窓に貼り付いたヤモリを裏からから見た図」が脳裏をかすめる。
が、猫と私の間に窓ガラスらしきものはない(つーか猫の背後に窓がある)。
支えもなく、窓枠に垂直に立って万歳―― その衝撃的なポーズに目を奪われていると、その白地に黒のブチ猫(間違いなく隣家の飼い猫)は、ふいに空中でモタモタジリジリと一回転をはじめた。
にゃにっ……?
白い腹が、右に左に逆さまに…行ったり来たり。
よくよく見ると、どうやら猫殿は網戸と窓の隙間に綺麗に挟まって抜け出せなくなっているらしい(メガネを掛けたら判明)。
窓はスライド式ではなく、オーブンのドアのように、取っ手を手前に引いて開けるタイプ(分かりにくい?)。
ビックリさせんなよぉ〜ぉ〜(ああドキドキ)
超常現象でも化け猫でもないことにちょっぴり安心する私。
何せ、この前夜、霧がかった空に浮かぶ飛行船のライトを見て、弟と「UFO!??」と3分近く浮かれ騒ぐというバカをやったばかりなのである(あまりに見事な円盤型シルエットだったのさ〜)。
心臓に悪いのは、ちと遠慮である。
まあ、「UFO騒ぎ」自体は
「うおー 本物? 本物っ!? あのカタチ、飛行機やないで! ラピュタだーー!!」
とか喚めきまくって結構楽しかったんだけど(何やそら)、高速道路を速度オーバーでぶっ飛ばしながら携帯で写真を撮ろうとする弟が怖かったんだよね、実は(助手席で命を握られていた私…)。
隣を走ってるバイクの兄ちゃんも、ちらちら空見てるし……(危ないぞ)。
さておき、何であんなとこに入り込んだのか不明だが、猫は面白がって見上げている私に阿呆な体勢で眼(ガン)を飛ばしてきた。
そして、更に激しく、キャット空中三回転〜!!(モタモタモタ…)
しかし、すぐに自力脱出は諦めたらしく、今度は家族を「うなーーーっ!!」と呼び始める。
へっ、もうギブアップかい!?
この猫は、うちの庭にうんこを落とし、そして、一夜干しにしようとしたホッケ(魚)を奪い去ったコノヤローな奴である(食べ物の恨みはなんとやらだよ…)。
けど、あと5分してあの体勢だったら、隣家に救助申請にいかんとな……。
こころ優しき私は、とりあえず洗濯干しに戻った。
そして、数分後に「はりつけ猫(勝手に命名)」を念のため確認すると、奴はどうやら脱出できたらしく、ジト〜っと、さっきのとは違う窓から私にガンをくれていた。
だから、助けるつもりだったってばーーー!!!(お前、ちょっと怖いぞ ^^;)
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