後光


ある日、ぼんやりと電車の窓際に立っていると、ふと視界の端で何かが流れるように動いていることに気付いた。
視線を落とすと、そこには今までに見たこともないくらいの光沢をたたえたハゲ頭が……!

もちろん、ハゲを馬鹿にする気持ちなどはない。
遺伝やホルモンの関係とあらば自然なこと。女性に毎月生理が来るのと一緒でどーしようもないやん!…てなもんである。
しかし、今まで生えてたもんが無くなるってのは自分でもイヤだと思うし、「ハゲ = オジサン」的イメージもあり、気になる&気の毒だと思うのもまた事実(特に20代で進行しきっている人はね……)。
なんというか…… 恋人の条件として「ハゲはアウト」だという友人の言葉をアホらしく感じつつも、どこか「やむなし」と認めてしまっているのである。

要は中身でしょ〜なんだけど、どうも「ハゲ」という言葉を聞くと、「○○ハゲ」というあだ名の担任や、3年間もペアを組まされたセクハラ上司の顔が真っ先に浮かんできてしまい、ちょっと胸焼け気分になってしまうのである。
これはもう、彼らをイメージを駆逐するほどのインパクトのある好感度ハゲ頭に出逢うことを祈るしかない。
もともと枯れかかった老人のハゲは好みなので、次は脂っこい中年ハゲに抱いている一方的な「スケベっぽい」というイメージを駆逐したいところである……(実は、老人の方が露骨に助平だったりするしね ←まだボケてへんやろ!的に)。
さすがに外国のお女性のように「ハゲ = 男性的・セクシー」の境地にはいたらない気はするけれど、それはまぁ、しょーがない。
だって、黒髪はコントラストが激しくて、どーしても目立つねんもん〜!

最近あまり見ない気がするが、バーコードなんて特に!
思わず「一本の毛を大切にしているんだろうなぁ…」などと勝手な想像をして、ニヤリとしてしまう。
失礼だけど、本人ほどには周囲は深刻に受け止めていないのである。
私なんて特にヒドい、カラオケに行くと受け狙いで「ベルばら」の替え歌「ハゲは美しく散る」を熱唱している(もちろん薄い方がいない時)。
これで、馬鹿にしている気はまるでないつもりなのだから、質が悪い。
ハゲ・デブ・変な顔は、芸人ならお笑い要素なんだけどな〜くらいの割り切り方をしているのかも……と気付いたときには、少なからず衝撃を受けた。
「吉本」に毒されている……(もう、関西圏以外には引っ越せない)。

さておき、脱線しまくったので、あっさり話を戻す(オイ!)。

ある日、電車の中で、私は目の前に座るオッチャンの禿げ上がった頭皮に釘付けになった。信じがたいことに、それは、かなり……

…… 美しい

美しいのである。
一瞬、私は息を呑んだ。
磨き抜かれた鏡のような頭頂部に、窓の外の風景が映し出され、滑らかに流れていく……。
毛穴などすっかり消失したかに見える頭皮を覆う、薄く柔らかそうな産毛……。光に照らし出され、淡く輝いているではないか……!
神々しい……!
しかし、眼下にいるのは疲れたように寝入る中年サラリーマン(たぶん)。
そして、世に言う「てっぺんハゲ」。

不覚……。
何を見惚れているのだ……。その上、とっても失礼ではないか!!
もんもんと考えながら、これが私の求めていた「好感度ハゲ」かもしれないと、次の駅で降りるまでじっと見つめ続けた……。
食わず嫌いのものが、意外に美味しかった時のような衝撃だった……。




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