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▼ 名物スポットにいらっしゃ〜い♪(その4)
暗いのは地下だから! ―― 冥界 その1
愛の女神アフロディテの暇つぶし企画「神話世界一周旅行」に付き合わされるハメになった貴方。
神々の伝令役ヘルメス神が貴方を冥界に案内してくれるぞ〜…ってことで、今週も行ってみよ〜!
ヘル「さぁさぁ、みんな〜! 二列になって、はぐれないように付いてきて〜!」
二匹の蛇がまとわりついた黄金の杖(※1)を元気良く振り回し、死にたてピチピチの亡者達を引き連れ歩くヘルメス神。その姿は、さながら観光ガイドさん。
ヘル「はーい、よく聞いてー! 今から冥界に向かうからねー! 途中、見た目も中身も怖〜い方達がたむろってるんで、触ったり話しかけたりしないで、ちゃっちゃと進もうねー!」
亡者「はぁぁ〜〜ぃぃぃ(どよよ〜ん)」
ヘル「はいはい、君はこれ持って。道中暗いから、皆が迷わないように照らしてやって〜。 で、人数確認は済んだ?」
忙しそうに、貴方に松明(たいまつ)を手渡すヘルメス。
戦場から大勢の亡者を連れてきたかと思うと、ちゃっかり貴方を助手としてこき使っている。
貴方「えーっと、戦死者64名全員確認。けど、こっちのリストの5名がまだ……」
ヘル「ああ、そっちはタナトス(※2 死神)に頼んであるから大丈夫。それじゃあ、みんな〜、出発するぞー! あー そこそこケンカしなーい!」
硫黄臭い火山地帯、噴火口を塞ぐように出来た湖のほとり……
貴方の足元に、地の奥底に続く暗くて深い洞穴がぽっかりと口を開けている。
どうやらここが地上から冥界へと降りる入り口らしい。亡者達は怯えたように、松明に導かれ付いてくる。
ヘル「悪いねぇ、すっかり甘えちゃって」
時折、亡者達を確認しながら、てへっ♪と貴方に笑いかけるヘルメス。
憎めない笑顔に、思わず苦笑する貴方。
貴方「ところで、冥界の入り口は世界の西の果てにある…って、アポロンから聞いたんですけど?」
ヘル「ああ、入り口は何カ所かあるんだ。今通ってきたところは、ベスビオ火山のすぐ近く。あの湖は毒の蒸気を出してるから、周囲に人も近づかないしね。なかなか雰囲気出てただろ? 他には、神殿の奥とか……」
貴方「あの〜…… なーーんか、さっきから周囲に何かいる気がするんですけど〜」
ヘル「ああ、気にしない気にしない。もう冥界も近いから、色々いるんだ。『嘆き』に『病気』、『老年』『恐怖』『飢餓』『労苦』『死』……。暗くて幸いさ。みんな恐ろしい姿だから、見たら気絶しちまうかもよ。ハハッ」
貴方「今、蛇の髪の毛をリボンで結んでる女性も見えたんですけど〜」
ヘル「ああ、それは不和の女神エリスさ…。たまにこの辺でくつろいでるよ。リボンが真っ赤な血に染まっていただろ? そうそう、ちなみに、あそこで火を吹いてるのは、キマイラかな…(※3)」
貴方「…… さあ、とっとと進みましょう!!(号泣)」
やがて、川の流れる音が聞こえ始めると、ヘルメスは足を止め、亡者達を一カ所に集めた。
ヘル「はーい。到着〜! ここからは各自、あそこに見える冥界の入り口・青銅の門まで行ってもらうよ〜!」
前方に横たわる大きな川の流れ。その向こうに、巨大な冥界の門が見える。
ヘル「川に着いたら、渡し船に乗って向こう岸に渡るんだよ〜。カローンっていう渡し守がいるからね。 そうそう、皆、渡し賃は忘れてないね? それじゃ、解散ー!」
貴方「え? 舟に乗るのに、お金取られるんですか!?」
ヘル「そうなんだよ〜、せちがらい話だろ? その上、カローンの奴は正式な埋葬がなされていない亡者は舟に乗せないから…。そんな奴は川を渡ることも許されず、100年近く川辺をうろうろ彷徨い歩き、やっと向こう岸に渡してもらえるんだ。のたれ死にした貧乏人は、あの世でも、すんなり楽にはなれないってワケさ…」
言われてみれば、この周辺に来て 急に大勢の他の亡者達の姿を見掛けるようになった。
ヘル「まぁ、もう死んでるんだし、時間はタップリ。気にすることもないんだけどな。 とりあえず、今日の任務はこれにて終了! それじゃ、俺達も行こうか、冥界見物に!」
連れてきた亡者達の後ろ姿を見送ると、急に、貴方の頭に突き刺さった矢(名称:どこでもフリーパス)をまじまじと見つめ、いたずら小僧のように笑うヘルメス。
ヘル「そのゼウスの通行許可証があれば、怖いものナシだからな〜」
何かを企んでいるかのようなその横顔に、一抹の不安がよぎる貴方であった……。
つーわけで、次回へつづく……。
※1 ケーリュケイオンの杖。アポロンからもらったらしい。
医神アスクレピオースも似たようなのを持っているが、蛇は一匹。
※2 タナトスの回参照〜!
※3 頭がライオンで体は牝ヤギ、シッポが蛇……という複合モンスター(これでもシンプルバージョン)。
詳しくは、キマイラの回参照〜!
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