〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
▼ 名物スポットにいらっしゃ〜い♪(その5)
暗いのは地下だから! ―― 冥界 その2
愛の女神アフロディテの暇つぶし企画「神話世界一周旅行」に付き合わされるハメになった貴方。
神々の伝令役ヘルメス神の案内で、ついに冥界の入り口に辿り着いた!…ってことで、今週も行ってみよ〜!
冥界の入り口である青銅の門は、川を越えれば、もう目と鼻の先!
ヘルメス神は貴方を連れて空中に駆け上がると、亡者達でひしめく川岸を乗り越え、髭の長い薄汚い老人が操る舟の上に舞い降りた。
ヘル「よっ、カローン! 今日も大入り満員。大もうけだな?」
カロ「何じゃヘルメス!? 勝手に亡者を乗せるな、おい、貴様も、とっとと渡し賃を出さんかっ!」
いきなり老人…冥途の河の渡し守・カローンに怒鳴られて、ボー然とする貴方。
一気に対岸まで飛んでしまえば良かったのに…と思っていると、ヘルメスがいつものイタズラな笑みをひらめかせる。
ヘル「せっかくの名所巡りに、遊覧船は外せないからな…… うんうん」
貴方「余計な気遣いありがとう〜(TT)」
ヘル「さておき、カローン。この者の頭に刺さっている矢をよく見ろ!」
カロ「・・・・。おおっ!? これは金の矢? コインの代わりによこすというのだな? ラクガキがあるが、まぁいいだろう。乗せてやる(※1)」
貴方「ギィイイイイイ 痛い〜〜!!」
ヘル「抜くな抜くな! 矢に書いてある文字をよく見ろ! それは、ゼウス謹製『どこでもフリーパス』だ!」
カロ「・・・・・・。ワシを騙す気じゃな?」
貴方(うあ〜 ヘルメス、信用ねえ〜)
ヘル「まぁ、ゼウスが酔っぱらって書いた文字だから、読めないのは当然なんだけどさぁ…」
貴方(ついでに、フリーパス、役に立たねえ〜)
ヘル「とりあえず、アフロディテのうっふんエッチなブロマイドで手を打ってくれ…」
カロ「ぬ。ま、まぁ、仕方あるまい(高く売れそうだし)。アンタの頼みを断ったら何されるか分かったもんじゃないからな…… ハッ! 勝手に乗るんじゃない! そこの亡者ー!!」
舟のへさきに手を掛けようとした亡者に容赦なく蹴りを入れると、そのまま対岸に漕ぎ出すカローン。
貴方(年寄りなのに力持ち〜…… ^^;)
「ところで、この河は泳いで渡っちゃダメなんですか?」
ヘル「さぁ… 今までにそんなことをした筋肉バカはヘラクレスくらいだよな?(※2)」
カロ「・・・・・・(ムカムカッ)」
ヘル「と、とにかく、カローンの許しなく、亡者はこの河を渡れないんだ。生きている人間は、もともと冥界に入ること自体、許されてないし……。ま、この舟は皮で出来てて、とても軽いから、生身の体を捨てた魂しか乗せられないんだけど…」
貴方「冥界に入るには、絶対にこの河を渡らないといけないんですか?」
ヘル「そぉ、当たり。冥界は周囲をいくつもの河に囲まれているから。ちなみにここは『悲観のアケロン』…アケロン河さ(※3)。他には『憎悪のステュクス』『火のプレゲトーン』『忘却のレテ』『嘆きのコキュトス』…などなど。皆、冥界っぽくオドロオドロ〜な名前だろ?」
貴方「確かに…… ^^;」
ヘル「中でもステュクスは誓約を司る重要な河でね。ステュクスの河の流れに誓った言葉は、神といえども取り消したり破ることが出来ないんだ(※4)。あと、忘却のレテは、亡者達がその水を飲むと、前世の記憶をきれいさっぱり忘れるらしい。…… おっ? そろそろ、対岸に着くぜ」
前方を見ると、冥界の入り口・青銅の門がますます巨大に、貴方の視界に迫っている。 と同時に、周囲に響き渡る、この世のものとは思えぬ獣の咆哮……。
門の手前で のっそりと動き出した巨大な影……。
ギャー! イヤー〜ッ!…と、思わず凍り付きながら、次週へと続くのであった……。
※1 当時、埋葬する際には、死者の口の中に「渡し賃」としてコインを入れていたらしいです。
だから、ちゃんと埋葬されてない人は、渡し賃が払えないのねん(←おそらく、前回の話で冥界に連れてきた戦死者達も…)
※2 ヘラクレスが「12の試練」の一つとして冥界の番犬ケルベロスを捕まえにやって来たときは、カローンを恐喝して強引に舟に乗り込んだとか、勝手に河を泳いで行ったとか言われている…。
生きた人間が冥界に入った例はいくつかあるが…… 楽人オルフェウスが、妻を慕う曲を奏でてカローンを感動させ、舟に乗せてもらった話などが有名かも知れない。
※3 冥界の河の渡し守・カローンの居るのはステュクスとする説もある。
ステュクス河は冥界を七回巻いて流れていて、アケロン、コキュトス、プレゲトーン、レテなどはその支流らしい…(ちと自信なし)。
※4 神々がステュクス河に立てた誓いを破った場合には、百年間(十年?)神の特権を剥奪されてしまうそーな。
時々、ゼウスが愛人に「なんでも願いを叶えてやるよ〜ん」などと誓って、後で激しく後悔している(例:セメレの回参照〜)。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜