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▼ 名物スポットにいらっしゃ〜い♪(その14)

 暗いのは地下だから! ―― 冥界 その11


 愛の女神アフロディテの暇つぶし企画「神話世界一周旅行」に付き合わされるハメになった貴方。
 神々の伝令役ヘルメス神の案内で、今週も冥界観光に行ってみよ〜!


 闇の奥からヘルメスを呼ぶ 冷たい女の声に、思わず身構える貴方とヘルメス。
 見ると、薄暗い空の一点に小さな赤い灯がともり、それが、凄まじい速さでこちらに近づいてくるではないか。

ヘル「げ、まさか、エリーニュス……」

貴方「復讐の女神さんですか?(こそっ)」

ヘル「ああ。彼女達って信じられないくらい地獄耳なんだよ……」

 よほど恐ろしい女神なのか、ヘルメスが珍しく青ざめて、しーっと口元に指を当てる。
 それと同時に、ふわっと風が起こり、貴方の眼前で赤々と炬火(たいまつ)が揺らめいた。
 そこには、蛇の髪を持った恐ろしい形相の女神が、背中の翼をはばたかせている。

ヘル「や、やあ、ティーシポネーじゃないか! よく、ここにいるのが分かったね!」

ティ「ああ、私ゃ地獄耳だからねぇ……」

 嫌味たっぷりに返事をすると、復讐の女神(エリーニュス)は、ふいに見えないはずの貴方を覗き込むように見据えた。

ティ「亡者よ、姿隠しの帽子を脱ぐがよい。いるのは分かっている。私は、エリーニュスの一人、ティーシポネー(※1)。お前を連れに来た」

 ヘビに睨まれたカエルのように硬直している貴方の代わりに、ヘルメスが帽子をもぎ取る。

ヘル「ちょ、ちょっと待てよ! こいつはゼウスの客人だ! ほら、この通行許可証を見ろ。不法入国には当たらないぜ! ハデスの許可だってとってある」

 ヘルメスは貴方の頭を抱えるように持つと、頭頂部に刺さった矢(ゼウス謹製どこでもフリーパス)を見せた。

ヘル「アンタの仕事は悪人を罰することだろ? 亡者の仕置きの邪魔になったていうなら謝るさ。けど、こいつは――」

ティ「どうでも良い。それより、この者を即刻、地上に返せ。今すぐにだ! 早くしないと、あのバカが冥界に踏み込んでくる!」

ヘル「バカ……?」

ティ「アポロン神だ……」

 その一言で、ヘルメスは全てを察したらしい。
 どっ…と疲れた表情で、気の毒そうに貴方の肩を叩く。

ヘル「そういや、エロスが恋の矢を使ったそうだな……。アポロンに君の案内役をさせるために……」

 げっそり…そして、うんざり、うなづく貴方。

ヘル「恐らく、君が居なくなったことに気付いて追ってきたんだろうぜ。普段はのんぽり穏やかなんだけどな……。キレると、正直、何するか分からん……」

ティ「ハデスの話では、アポロンは冥界の入り口に馬車で乗り付けようとして、神々に止められたらしい」

ヘル「馬車…? って、太陽の馬車か!? オイオイ、下手すりゃ、地上が火だるまになっちまうぜ!」

ティ「ああ。だから、すぐに行け! 西だ!」

ヘル「行け…って、君も来てくれるんだろ、ティーシポネー!? 俺が横恋慕したと勘違いでもされてみろよ、一人じゃマズイって……!」

ティ「では、確かに伝えたぞ。お前が、許可証を悪用して、禁足地に潜り込もうなどと考えていたことは忘れてやろう……。ではな……!」そそくさ

ヘル「あ、ズリぃ!」

 スッと闇に消える女神。
 タルタロスに落とされた先代の天界の王達を見に行こう…というヘルメスの企みは、彼女に筒抜けであったらしい。

貴方「とりあえず、巻き添えを食らわないように、これ被っててください……」

 貴方が差し出した姿隠しの帽子を、ヘルメスが諦め顔で被る。

ヘル「あ〜あ……。ずっと感じてた嫌な予感はこれだったわけねぇ……。他にも、ヘカテーやヒュプノスの館も案内したかったんだけどな〜」

貴方「ヘカテ……?」

ヘル「この冥界で、ハデスやペルセポネに続く実力者で、呪術に長けた女神さ。ヒュプノスは眠りの神で、太陽の訪れることのない宮殿で、ケシの花と夢に囲まれて、す〜やすや眠ってる。……っと、ちょっと待てよ……、ヒュプノスの館って、確か冥界の西の方だったよな……。はぁ〜…… 急ぐぜ。アポロンが乗り込んだりしたら、ほんと面倒なことになりそうだ」

 言うなり、貴方を抱きかかえ、今までにない勢いと身のこなしで、宙を駆けるヘルメス。
 かすかに開けられたタルタロスの門を一瞬ですり抜けると、ハデス達の住む冥界の上層部を目指して、暗闇を上昇し続ける。
 伝令神の面目躍如と言ったところか、貴方があまりのスピードに目を回しているうちに、もうすぐ地上…という所まで辿り着いていた。

ヘル「おーい、目を覚ませ〜。この洞窟を抜けたらすぐ地上だぜ〜」

 暗闇の中、ヘルメスの声が小さく耳をくすぐる。

貴方「あれ……? 『無事故』飛行…??」

 目を開けるなり驚く貴方を、ヘルメスが「失礼な……」と小突く。

ヘル「それにしても、暑いな……。アポロンの奴、まさか本当に太陽の馬車で地上に近づいたのか? はぁ〜 君も大変だ……。なんとか、アポロンの目を覚ます方法を考えるから、それまで踏ん張るんだぜ。そうそう、当面はこの薬で乗り切りな……」

貴方「薬?」

ヘル「途中、ヒュプノスの所でもらってきた特製の眠り薬さ…… フフフフ」

 楽しそうな笑い声を残して、ヘルメスは貴方を出口まで送り届けて消えた。

 ぽっかり口を開けた洞窟の出口――
 真昼のように光り輝いている地上へ、手探りするように踏み出す貴方。
 そして、三歩と進まぬうちに上空から降ってきたのは、当然、あの声……。

「ハァ〜〜ニィイイイ〜〜〜!!!」

 陽光と化して舞い降りたアポロンは、貴方に抱きつこうとして失敗し(※ すり抜ける)、それでも嬉しそうに微笑んだ。

アポ「あああ……ん ハニー、寂しかったよ〜ん。けど、僕らを引き離すものなど、もう何もないのさ〜〜〜ぁああん……んっ? ごくん――」

 喜びあまって歌い出そうとしたアポロンの口に、すかさず薬を放り込む貴方。

アポ「あで? ぁふ〜、ん〜」パタン

 ふごーーーーぉおおおお………… と、爆睡モードで次回へつづく〜!


 ※1 エリーニュス三姉妹の一人。蠍(さそり)ムチで、亡者達を
    ビシバシ懲らしめているらしい。
    他の二人は、アーレークトーとメガイラ。
    詳しくは、エリーニュスの回参照〜!


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