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▼ 名物スポットにいらっしゃ〜い♪(その15)

 金のリンゴは食えるのか? ―― ヘスペリデスの園


 愛の女神アフロディテの暇つぶし企画「神話世界一周旅行」に付き合わされるハメになった貴方。
 エロスの愛の矢の効果で、貴方への愛が止まらな〜い太陽神アポロンの案内で、今週も行ってみよー!

 冥界を後にして、アポロンと感動の(!)再会を果たす貴方。
 ところが、どうしようもなく暑苦しいアポロンの愛情表現(太陽神だし?)に耐えきれず、いきなり最終兵器(?)の眠り薬を使ってしまった……。

 しかし、ここは世界の西の果て――。恐らくは、大河オケアノス(世界を周縁を流れる大洋河)に浮かぶ島の一つなのだろうが……。

貴方(嗚呼、唯一の脱出手段を眠らせてしまった〜…!! ^^;)うかつ…

 見渡す限りに広がるの海原を見回して、思わず途方に暮れる貴方。

貴方(やべ……。この辺って、魔物だの何だのが住んでるって、前にアポロンが言ってたっけ〜)

 普通なら、魔物に喰われるか、飢え死にか……。
 自分が既に死んでいることを思い出し、少しは安堵したものの、やはりビクビクしながら、アポロンの眠っている所へ戻ろうとすると、ふいに、背後から高飛車な女の声に呼び止められた。

女「まさか!? そなたが……か」

 そう言って、女は、振り返った貴方の顔を凝視している。

貴方「び…… 美人…… ???」(・・;)

 良くて 蛇の髪を持つ復讐の女神(エリーニュス ※1)、悪ければ 悪名高いゴルゴン(これまた髪が蛇の女怪 ※2)あたりかもしれない……という貴方の予想は裏切られ、そこにいたのは威厳に満ちた美しい女神。
 女神は、思わず洩らした貴方の言葉をしっかり聞きつけ、とたんに機嫌の良い笑顔を見せた。

女神「ほほほ……。この正直者が……! 何やらヘルメスがこそこそ動いておるゆえ、また あの方の浮気の世話でもしておるのではと思い、見にまいりましたが……。ほほ、噂はまこと。アフロディテのはからいで、世界を巡っておる者とは、そなたのことですね?」

貴方「あの方……? 浮気??」

女神「ほほほ。それはもうよい。そなたを見て、それはないと確信いたしました(←何気に失礼)。私はヘラ。ゼウスの妻……」

 その瞬間、力一杯、硬直する貴方。

貴方(へ… ヘラってーと、ゼウスの浮気相手を決して許さず、死ぬほど苦しめるっていう、噂の正妻!? あの嫉妬深い、復讐魔の?? ※3)

 そう思ったことを、必死で胸の底に沈めて、貴方は笑顔を絶やさない。

貴方(殺される…… ちょっとした誤解さえ、命取り……)

ヘラ「ところで、あちらで だらしなく眠っているアポロン……。何事です? もしや、愚かにもエロスが愛の矢を射込んだ…という噂も、まことですか?」

 ヘラは、コクコクうなずく貴方を、気の毒そうに見つめ、

ヘラ「ふーむ。それは難儀な……。しかし何故、きゃつめは眠っているのです?」

貴方「と… 飛びつかれそうになりましたので、思わず……(あああ… 神に刃向かったとか言って、滅殺コース…!?)」

ヘラ「ふむ。不義の子とはいえ(※4)、アポロンは神。その愛を拒むか……」

貴方「いっ…いえ、ただ、私も国に想う人がおりましてっ……(あーも〜死ぬ)」

 貴方の脳裏を駆けめぐるのは、地獄でのお仕置きの数々……。ところが、

ヘラ「立派! なんと立派な心掛けでしょう!!」

貴方「は?」

ヘラ「たった一人へ捧げる貞節な愛。そなたはそれを守ったというのですね!?」

貴方「へ……?? は、はいっ…… それは当然……?」

ヘラ「何!? 当然? ふむ…。良い! とても良い! 気に入りました。よろしい、わたくしも、そなたの旅に一肌脱ごうではありませんか……!!」

貴方「いえ! そんな、おそれ多い! お忙しいのに、そんな……」

ヘラ「何、遠慮はいりません。わたくしが案内するのです、他の者が決して立ち入ることの出来ぬ場所にせねば……。私の秘密の場所……」

貴方(あああ…… この人も、もしかして「ヒマ!?」……)

ヘラ「よろしい。まずは、私のりんご園に立ち寄り、その後、カナトスへ行って、最も美しい私を見る栄誉を与えましょう……」

貴方「あの、しかし、アポロンさんをこのままにしては〜。目覚めた時、私が居なければ、ちょっと大変なことになるかも…と。こっ、この方も愛の矢に操られているだけですので、少し気の毒ですし〜」ドキドキドキ

ヘラ「ほほほ。きゃつのことは心配ない。これ、イーリス!(※5) きゃつめのことは任せましたので、適当に処理しておきなさい……」

 ヘラの命令に応えるように、天から虹色の輝きが舞い降りたと思うと、優しい笑顔の女神が羽をたたんで、うやうやしくヘラにうなずき返した。

ヘラ「では、まいりますよ。私の馬車にお乗りなさい……」

 意外にも親切なヘラ女神……。
 もともとは夫婦の守り神である。ゼウスの浮気さえなかったら、もしかすると心の広い穏やかな女神なのかもしれない……。

ヘラ「まもなく見えてきますよ。あの巨人の足元に私のリンゴの木があるのです」

 見ると、今まで見た中でも特別立派で強そうな巨人が、苦しそうに天に手を差し上げ、立っている。

ヘラ「あの者はアトラスと言って、天界の覇権を賭けた戦いに負けた古い神の一人です(※6)。彼は特別強く、我々オリュムポス勢を苦しめたので、休むことなく天を支え続ける…という罰を受けているのです」

貴方(あの人が、「や〜めた〜」って投げたら、天が落ちてくるんだろーか……)うーむ

 スケールの巨大さに、思考が追い付かない貴方。

ヘラ「ゼウスとの婚姻の祝いにと、大地の女神ガイアから、黄金のリンゴのなる木をいただいたのですが、ゼウスが浮気相手達に勝手に与えるので、遠く安全なこの地へ移したのです。何より、最強の番人に守らせているので安心です……」

 ヘラは、美しい金のリンゴがたわわに実った木の近くへ馬車を止めると、軽やかに駆け寄ってきた三人の乙女達に命じた。

ヘラ「ヘスペリデスよリンゴを一つ取っておいで……」

 乙女達は、愛らしい笑みを浮かべて、笑いさざめきながらリンゴの木へと走っていく。

ヘラ「あの三人姉妹はヘスペリデス、天を支えるアトラスの娘達です。親孝行の彼女達は、父を想って、こんな所にまで付いて来たのです。彼女達が守っていることから、ここをヘスペリデスの園と呼ぶ者もあるとか…(※7)」

 貴方が、美しく輝くリンゴの木を見上げていると、ふいに木の中で、何かが、ガサッ……と動きだし、巨大ないくつもの鎌首をもたげた。

ヘラ「あれは、百の頭を持つ眠ることのない竜、ラドン。いくつもの頭で代わるがわる寝ずの番をして、ヘスペリデスと共にリンゴを守っているのです」

 目を丸くする貴方を機嫌良く見守ると、ヘラは、ヘスペリデスが取ってきたリンゴを貴方に差し出した。
 しかし、霊体である手がすり抜け、受け取ることが出来ない。

ヘラ「馬車には乗れるのですから、その気になれば触れられるはずです。しかし、まぁ良い。これは、そなたが元の姿に戻ったときにでも与えましょう。そなたと思い人との結婚の記念として……ほほほ。そなたが居ない間に、心変わりでもしておったら、私がしっかり懲らしめてやりますゆえ、ほほほ!」

 恐ろしいことを、さらりと言って、次の目的地・カナトスを目指すヘラ女神……。
 ってぇ訳で、次回に続く〜!


※1 エリーニュスの回参照。なかなかに恐ろしい姿&性格をしていらっしゃる。

※2 メドゥーサ(ゴルゴン)の回参照〜!
   その姿を見たものを、石に変える女怪。お住まいはこの辺らしい。

※3 ヘラの回参照〜!

※4 アポロンは、ゼウスと女神レートーの息子。
   ヘラは、浮気相手のレートーの出産場所を奪うなどして、さんざん苦しめた。

※5 とっても優しい虹の女神。ヘラの秘書官というか、小間使いというか……。
   詳しくは、イーリスの回参照〜!

※6 アトラスの回参照〜!
   ゼウスの父で先代の天界のあるじであるクロノス神に仕えていた巨人。

※7 ヘスペリデスの回参照〜!
   ついでに、ペルセウスの回にも登場〜。
   ヘラクレス(その13)も、参考までにどぞ〜。


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