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▼ ケユクス & アルキュオネ

 おしどり夫婦にゃ負けません〜!


 あるところに、ケユクスという王がいた。「明けの明星」を父親に持つ彼は、父親似の美丈夫で、その上、素晴らしい名君だった。
 そんな彼の奥さんは、風の神の娘アルキュオネ。
 二人はお互いにベタ惚れで、夫婦円満、毎日幸せ絶好調ー!!だった。

 ところが、である。近頃、ケユクスの身内に立て続けに不幸が起こり(※1)、王国自体にも、恐ろしい異変が続いていた。
 そこで、ケユクスは考えた。

ケユ「嗚呼、ハニ〜。私は何か、神々に憎まれるようなことをしてしまったのかもしれないよ…。原因を突き止めに、アポロン神の神託(当たると評判)を伺いに行こうと思うんだけど……」

アル「ダメよ、ダーリン! 神託所は海の彼方よ! 船旅は危険だって言うわ。それに、私、何だか嫌な予感がするの。どうしても行くって言うのなら、私も連れて行って!」

ケユ「可愛いハニー。君を危険にさらすわけにはいかないよ。お願いだから良い子にして待っていておくれ……」

 ……とかなんとか言って、結局、ケユクスは愛しい妻を置いて、危険な船旅に出たのであった。
 一方、毎日毎日、明けても暮れても、夫の無事を祈り続けるアルキュオネ。
 特に、夫婦の守り神であるヘラ女神には熱心に祈り、供物を欠かさなかった。

 しかし――
 困ったのはヘラ女神。アルキュオネが無事を祈る夫・ケユクスは、とっくに嵐に巻き込まれて亡くなっていたからである(妻の予感大当たり)。
 いたたまれなくなったヘラは、眠りの神のもとに使いを送り、「夢を使って、ケユクスの死を伝えるように」…と命じた(※2)。

 こうして、夢の中で、夫の死を知ったアルキュオネ。
 涙にくれて、最後に夫を見送った堤防にたたずんでいると、遺体がひとつ、波に押されて漂っているのが見えるではないか。
 妻の元に帰りたい……というケユクスの一念が届いたのかも知れない……。
 はたしてそれは、愛しい夫、ケユクスの変わり果てた姿だった――。

 アルキュオネは、迷うことなく夫の元へ、海へと身を躍らせた。
 すると、不思議なことに、次の瞬間、アルキュオネの腕は翼となり、その身は宙を舞っていたのである……。
 この夫婦を哀れに思った神々が、二人を美しい翡翠(カワセミ)に生まれ変わらせたのだった。
 こうして、鳥となった二人は、いつまでも仲睦まじく暮らしたという……(※3)。

 めでたし、めでたし――

 ……と、いきたいところだが、最後に、恐ろしい別説を一つ……。
 
 相次ぐ身の回りの不幸に、ケユクスが神託を伺いに行く……と、ここまでは先ほどの話と同じなのだが、この別説では、ケユクス抹殺に関わる黒幕が堂々と現れるのである!(ドキドキドキ)

 その黒幕とは、仲睦まじい二人を快く思わない、心の狭〜い神様……。
 そう、嫉妬深いと言えばこの御方、神々の女王・ヘラ様であ〜る!(出た〜 ^^;)
 夫・ゼウスの浮気に苦しめられ、万年ヒステリー気味のヘラ女神。
「夫婦の守り神」なんて肩書きはなんのその(仕事しろよ)、私を差し置いて夫婦円満なんて許せませんわ!…ってなわけで、いつもの如く、嫌がらせに着手したのであった。
 そして、船旅に出たケユクスは、飛んで日にいる夏の虫〜とばかりに、嵐を起こして、あの世行き〜!にされたのでである。
 で、哀れに思ったゼウスが、二人をカワセミに変えたんだとか……(※4)。

 ヘラ女神ともあろう御方が、こんな仕打ちをするなんて……。私はもちろん信じませんわ……(うふ)。
 けどぉ…、風の神の義理の息子が、暴風雨で御昇天ですかぁ…? ふぅ〜ん…?


 ※1 姪っ子のキオネが美貌を誇った為にアルテミスに殺され、その父親(ケユクスの兄)はショックで、山から飛び降り自殺した(アポロンが哀れに思い、彼を鷹に変えたとか〜)。
 
 ※2 前回の「モルペウス」の回参照〜!
    人のモノマネが大得意である夢の神モルペウスが、ケユクスの姿に変じて、夢の中に現れ、切々と自分の死を告げた。

 ※3 アルキュオネの父である風の神も、娘が 海に浮かぶ巣で卵を抱く一週間だけは、海が荒れぬように風を抑えているため、冬にもかかわらず穏やかな日和が続くという。
    このことから、「平穏無事な日々」を「ハルシオン デイズ」というらしい(ハルシオン ← アルキュオネの別の読み方)。
    なんか、「ハルシオン」っていう睡眠導入剤を飲む日々…って意味もあるらしいけど(^^;)

 ※4 神々の怒りを買った理由として、
    夫婦仲の良さを見た人々が、ゼウスとヘラのようだわ〜と噂した為(ある意味、とても嫌味だわ)、
    調子に乗って、お互いを「ゼウス」「ヘラ」と呼び合った為、
    ……なんてことも言われている。


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